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東京高等裁判所 平成6年(行ケ)74号 判決 1996年2月07日

京都市上京区新町通上立売上る安楽小路町418番地の1

原告

株式会社ひなや

代表者代表取締役

伊豆蔵明彦

訴訟代理人弁護士

増岡章三

對﨑俊一

増岡研介

訴訟代理人弁理士

早川政名

京都市北区西賀茂南川上町54

被告

山田眞治

訴訟代理人弁護士

釜田佳孝

訴訟代理人弁理士

玉田修三

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成4年審判第12160号事件について、平成6年2月4日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、名称を「帯」とする登録第1882517号実用新案の実用新案権者である。

上記実用新案(以下「本件考案」という。)は、昭和60年12月27日に出願され(実願昭60-203171号)、平成3年1月30日に公告され(実公平3-3544号)、平成4年1月14日に登録がされたものである。

被告は、平成4年6月22日、上記実用新案登録につき無効審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成4年審判第12160号事件として審理したうえ、平成6年2月4日、「登録第1882517号実用新案の登録を無効とする。」との審決をし、その謄本は、同年3月12日、原告に送達された。

2  本件考案の要旨

長手方向に沿う両側縁を縫着されて重合状の表地と裏地からなる帯本体におけるその表地を長手方向に対して斜め対称状の組糸による織り構造とし、裏地を長手方向に平行する経糸とこれに直角状の緯糸による織り構造として成る帯。

3  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本件考案の帯は、表地を組物、裏地を織物とした縫袋帯であるところ、本件考案の実用新案登録出願前にすでに公知であったと認めざるをえないから、本件実用新案の登録は、実用新案法3条1項1号の規定に違反してなされたものであって、同法37条1項1号に該当するとして、本件実用新案登録を無効とした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決は、本件考案の帯は、本件考案の実用新案登録出願前すでに公知であったと認定しているが、その認定の根拠とした証拠の評価、とりわけ審判手続における証人の証言の評価を誤っており、その結果誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  証拠の評価の誤り

本件考案の帯は、表地を組物、裏地を織物とした縫袋帯、すなわち組帯であるところ、審判手続中において提出された書証(例えば乙第1号証として提出された写真)は、これを見ても被写体である帯の構成が不明というほかなく、さらに、検証物(例えば検乙第3号証として提出された帯)も、いわば同種のものが多数存在する不特定物のうちの一つであり、製造年月日等の記載もないものであって、真に本件考案の出願前のものであるかどうか不明というほかはない。

審決は、被告主張の各帯が、本件考案の実用新案登録出願前に公知であった事実は、審判手続における証人浅田敏明(以下「浅田証人」という。)及び証人田中靖子(以下「田中証人」という。)の証言により認められるとして、両者の証言をその唯一の拠り所としている。

しかし、浅田証人は、到底正確な理解及び記憶に基づいて証言しているものとは認められず、また、公正な第三者性についても、極めて強い疑念が抱かれるものといわざるをえないし、田中証人についても第三者性がなく、同人の証言によっても、本件実用新案登録の無効事由は何ら立証されていない。

以下、これらについて詳述する。

(1)  浅田証人は、昭和58年8月20日、昭和59年8月25日各発行の各「三容展」(甲第6、第7号証、審判手続甲第3、第4号証)、1980年第154回、1981年第157回、1982年第159回、1983年第161回の各「春の百選会」のカタログ(甲第8~第11号証、審判手続甲第6~第9号証)、1983年第162回「秋の百選会」のカタログ(甲第12号証、審判手続甲第10号証)掲載の写真に写っている帯につき、「縫い袋帯で、表地が組で、裏が織」であるなどと、あたかもその構成が分かるかのように述べている。また、提出された帯の現物(検乙第1、第3号証、審判手続検甲第1、第5号証)についても、それが「組帯」であると述べている。

しかし、既に袋帯として製品となっている帯の表地が「組物」であるのか、それとも単に「織物」をバイアス状(斜め)に使用している等により一見「組物」に見えるのかということは、製品を分解していわゆる「耳」の部分を詳細に観察するなり、糸をほどいてみるなりしてみなければ、正確には判断することができない。

このことは、浅田証人も、はからずも自認するところである。

このように、現物を目の前にしてさえ、「分解してみれば」分かると答えている証人が、単に写真を示されただけで、組帯であると証言していること自体、浅田証人の証言が全く措信しがたいものであることを如実に示している。

なお、浅田証人は、上記写真に写された帯につき、株式会社岡慶が展示した当時の記憶があり、そのときの記憶によっても「組帯」であることが分かるかのような証言をしているが、これも不可解というほかない。当時帯を分解して調べているはずはないし、また、仮に構成の点を措いても、株式会社岡慶在籍当時150社位のメーカーを担当し、季節によっては毎週展示会に出席して商品を見ていた(甲第14号証の3・浅田証人調書48頁230項以下)証人の10年以上前の記憶としては、鮮明すぎるといわざるをえない。

また、浅田証人の田中靖子所有の帯の現物(検乙第3号証、審判手続検甲第5号証)に関する証言も、所有者である田中靖子の証言と矛盾しており、浅田証人の証言が信用できないことは明らかである。

(2)  田中証人は、原告会社を退社した元従業員であるが、原告会社では染色関係の仕事に従事し、組帯の構成等について十分に理解しているとは到底いえない。

ところが、それにもかかわらず、田中証人は、組帯であることについて、帯の耳の部分にポイントがあることなど、原被告間の係争に相当深く関わっているのでなければ通常理解しているはずのないことまで述べている。このことは、田中証人に第三者性がないことの証左である。

また、田中証人の証言は、一見あたかも原告商品として組の袋帯を本件実用新案登録出願前に公の場で見たかのように聞こえるが、実はそうではなく、単に組物の帯地を原告会社の内部で見たというにすぎない。

前述のとおり、製品として袋帯の表地が組物であるか否かは、一見して分かるようなものでないのみならず、仮に分かるという前提に立ったところで、原告会社の内部の人間である田中証人が原告会社内で見たことにより、直ちに出願前公知となるものではない。

(3)  本件審判手続における人証に信用性がないことは上記のとおりであるが、被告が提出した検証物の帯の中にも極めて不可解なものが存在する。

例えば、検乙第2号証(審判手続検甲第3号証)の帯には、次のような内容のラベルが貼付されている。

「T2200516541日青世志利月」

このラベルは、原告のラベルであるから、同帯は原告製品であると推測されるが、原告の取扱いの実情に照らして、このラベルの内容を見る限り、同帯は実は平成2年に製造されたものであり、被告が主張するような本件考案の出願前のものではなく、被告による検乙第2号証の提出行為自体、作為的なものである可能性が高い。すなわち、被告は、平成2年に製造されたものを本件考案出願(昭和60年12月27日)前公知であったと主張し、強引に本件実用新案を無効にしようとしているのである。

そして、このことは、被告が本件考案出願前公知であるとして提出するその他の帯についても信用することができないことの証左である。

2  公知性の判断の誤り

上記のとおり、浅田証人及び田中証人の各証言を拠り所とする審決は取消しを免れないが、百歩譲って、上記各証言をそのまま措信したとしても、これによって直ちに本件実用新案登録の出願前に本件考案と同一の構成を有する組帯が公知となったことを導くことはできない。なぜなら、仮に、組帯が公の場に出るという事態が生じていたとしても、その構成は帯を破壊しなければ分からなかったはずであり、高価な帯をわざわざ破壊する者がいたとは考えられないからである。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がない。

1  原告の主張1について

原告は、審決は、浅田証人と田中証人の証言を拠り所としているというが、審決が本件考案の帯について無効事由を認めたのは、決して上記両証言のみによったのではなく、審判手続において調べられた各書証(審判における甲第1~第28号証)及び検証物(同検甲第1~第19号証)等との総合評価によるものである。

本件考案の構成に係る帯は、表地が「組物」で、裏地が「織物」であり、このような表地と裏地の両側縁(帯幅の末端部分)を縫い合わせた帯(縫袋帯)である。

そして、「組物」とは、数本あるいは数十本の糸を1単位とし、これを3単位以上用いて、一定の組み方に従い、交互に斜めに交差させて組み上げた布地を指し、一方、「織物」とは、経糸(垂直に走る糸)と緯糸(水平に走る糸)が織り重なってできる布地を指すが、両者の違いは、「組物」を構成する糸は常に斜め交差状に交差しているのに対し、「織物」を構成する糸は水平・垂直に交差する点にある。「組物」は、その糸の糸走状態から帯丈方向や帯幅方向に強い伸縮性を有する特性を有するものであるところ、本件考案は、表地を「組物」とすることによって、かつての縫袋帯に見られた表地、裏地とも「織物」とするものとは異なり、結びやすくほどけ難く雛になりにくい縫袋帯を提供するといったところにある。

そして、帯を専門に扱う業者であれば、その当時において、表地が「組物」で裏地が「織物」からなる縫袋帯は原告商品以外には存在しなかったことや、その帯が株式会社岡慶を通じて販売されていたことから、写真を見たり、現物を手にとってみれば、その構成は把握できたのである。本件に即していえば、写真や現物から表地の糸が斜め対称状に組まれ端部で折り返されて糸走している様を把握できたのである。

まして、株式会社岡慶の図案室(商品開発室)に長年勤務し、係長あるいは部長などの役職にあって、展示会「三容展」に出展するため原告の縫袋帯を選別するなどして、原告商品「組帯」に触れてきた浅田証人や、原告に昭和54年から勤務して、工場での表地製造過程や一日おきの検品で原告商品を見てきた田中証人が、その構成を把握していないはずがない。

特に検乙第3号証(審判における検甲第5号証)の帯は、田中証人が昭和57年に原告会社退社時に原告より購入したものであることが同人の証明書や証言から明らかであり、かかる帯が本件考案の帯に該当することは帯自体の構造や浅田証言から明らかである。

加えて、検乙第1、第4号証の帯についても、出願前公知であったことは疑いがない。

なお、原告の検乙第2号証の帯に関する主張は、該帯に貼着されたラベルと証人井上学の証言を根拠とするものであるが、その井上証言自体が極めて信用性に欠けるものであり、ラベル上の数字は、原告主張のような事実を表示するものとは思われない。むしろ、上記帯について何ら主張してこなかった原告の審判手続におけるこれまでの態度や、浅田証言(甲第13号証の4、114項、115項)、株式会社平文の証明書(乙第21号証)からすれば、出願前に公知であることは明白であるから、原告の主張は失当である。

2  原告の主張2について

当業者であれば、帯を破壊(分解)しなくとも、書籍上の写真や現物を手にとればその構成を把握できるから、組の袋帯が公の場に出ていれば公知である。

また、百歩譲って、破壊しないとその構成が把握できないとの前提に立ったとしても、現にかかる帯が市場に出回っており、入手のうえ破壊することが物理的に可能である以上、その構成は公知である。

したがって、原告の主張は失当である。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。

第6  当裁判所の判断

1  原告の主張1(証拠の評価の誤り)について

本件考案の要旨が前示のとおりであり、本件考案の構成に係る帯が、表地を「組物」、裏地を「織物」とした縫袋帯すなわち組帯であること、田中靖子所有の帯(検乙第3号証、審判手続検甲第5号証)及び山田津奈子所有の帯(検乙第1号証、審判手続検甲第1号証)が上記組帯であることは、いずれも当事者間に争いがない。

そして、成立に争いのない甲第14号証の2(田中証人の証言調書)によれば、田中靖子は、昭和54年3月から原告に勤務し、染色関係の仕事をしていたが、昭和57年12月に退社する際の記念に、原告から組の袋帯を購入したこと、その帯が上記検乙第3号証(審判手続検甲第5号証)の帯であることが認められる。

また、検乙第1号証(審判手続検甲第1号証)及び検乙第5、第6号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認める乙第17号証によれば、山田津奈子が昭和56年10月4日の石岡俊一の結婚式に出席した際に締めていた帯が上記検乙第1号証(審判手続同甲第1号証)の帯であることが認められる。

原告は、田中証人は第三者性がないからその証言は信用できないとして非難するが、原告の主張をみても第三者性がないとする根拠が薄弱であり、それ以上に同証言を弾劾する証拠を提出しないし、他に上記田中靖子所有の帯に関する認定を覆すに足りる証拠もない。また、上記山田津奈子所有の帯に関する認定を左右するに足りる証拠はない。

原告は、検乙第2号証(審判手続検甲第3号証)の帯に関し、その製造年月日は被告の主張とは全く異なり、本件考案登録出願よりはるか後の平成2年であると主張し、証人井上学の証言中にはこれに沿う部分がある。

しかし、証人井上学の証言は、上記検乙第2号証の帯の製造年月日に関して被告の主張を揺るがすものにはなりえても、前記田中靖子所有の帯(検乙第3号証、審判手続検甲第5号証)及び山田津奈子所有の帯(検乙第1号証、審判手続検甲第1号証)に関する認定に影響を与えるものと認めることはできない。

また、原告は、田中証人が組帯を原告会社の内部で見ただけでは公知になったとはいえないと主張する。

しかし、田中靖子は、昭和57年12月に上記帯を購入して原告を退社しているのであり、その際、これを秘密に保つべき約束などを原告との間に取り交わした事実も本件証拠上認めることはできないから、もはやその帯は公然知られうる状態になったというべきであり、原告の主張は失当である。

2  原告の主張2(公知性の判断の誤り)について

原告は、仮に組帯が公の場に出るという事態が生じていたとしても、その構成は帯を破壊しなければ分からないはずであり、これを公知ということはできないと主張する。

しかし、本件考案の構成を備えた帯が本件出願前日本国内において公然知られうる状態になったことは前示のとおりであり、そうである以上、同帯は公然知られた状態になったと推定され、これを覆すに足りる資料は本件全証拠によっても認められない。原告の主張は失当である。

3  以上によれば、原告主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵も見当たらない。

よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 押切瞳 裁判官 芝田俊文)

平成4年審判第12160号

審決

京都市北区西賀茂宙川上町54

請求人 山田眞治

大阪府大阪市中央区谷町3丁目4番5号 中央谷町ビル 玉田特許事務所

代理人弁理士 玉田修三

大阪府大阪市北区西天満6丁目8番7号(電子会館ビル)

代理人弁護士 釜田佳孝

京都市上京区新町通立売上る安楽小路町418番地の1

被請求人 株式会社 ひなや

東京都文京区白山5-14-7

代理人弁理士 早川政名

東京都新宿区愛住町1番地 富田ビル1階

代理人弁護士 増岡章三

東京都新宿区愛住町1番地 富田ビル1階

代理人弁護士 對崎俊一

東京都新宿区愛住町1番地 富田ビル1階

代理人弁護士 増岡研介

上記当事者間の登録第1882517号実用新案「帯」の登録無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

登録第1882517号実用新案の登録を無効とする.審判費用は、被請求人の負担とする。

理由

[1] 本件登録第1882517号実用新案(以下、本件登録実用新案、という。)は、昭和60年12月27日に出願され、平成3年1月30日に出願公告(実公平3-3544号)された後、平成4年1月14日に設定登録がなされたもので、その考案の要旨は、明細書および図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲に記載された次のものと認める。

「長手方向に沿う両側縁を縫着されて重合状の表地と裏地からなる帯本体におけるその表地を長手方向に対して斜め対称状の組糸による織り構造とし、裏地を長手方向に平行する経糸とこれに直角状の緯糸による織り構造として成る帯。」

[2] これに対して、請求人は、下記の理由により本件登録実用新案の登録を無効とすべき旨主張した。

「ⅰ. [主位的理由]

本件考案は、その出願前に既に公知であったから、実用新案法3条1項第1号の規定により実用新案登録を受けることができないものであるから、同法37条1項1号に該当し無効である。

ⅱ. [予備的主張]

仮に、本件考案が出願前に公知でなかったとしても、当業者において極めて容易に考案をすることができたから、やはり、実用新案法3条2項の規定により実用新案登録を受けることができないものとして、同法37条1項1号に該当し無効である。」

(証拠方法)

(1) 以下の書証を提出した。

甲第1号証の1ないし3:美しいキモノ・別冊「留袖と振袖」(婦人画報社昭和58年11月1日発行)

甲第2号証の1ないし10:甲第1号証に関する証明書

甲第3号証の1ないし11:「三容展-株式会社岡慶」(株式会社京都書院昭和58年8月20日発行)

甲第4号証の1ないし5:「三容展-株式会社岡慶」(株式会社京都書院昭和59年8月25日発行)

甲第5号証の1ないし4:「春の百選会1979第151回」(株式会社マリア書房昭和54年2月20日発行)

甲第6号証の1ないし4:「春の百選会1980第154回」(株式会社マリア書房昭和55年2月15日発行)

甲第7号証の1ないし4:「春の百選会1981第157回」(株式会社マリア書房昭和56年2月10日発行)

甲第8号証の1ないし4:「春の百選会1982第159回」(株式会社マリア書房昭和57年4月10日発行)

甲第9号証の1ないし4:「春の百選会1983第161回」(株式会社マリア書房昭和58年4月15日発行)

甲第10号証の1ないし4:「春の百選会1983第162回」(株式会社マリア書房昭和58年9月10日発行)

甲第11号証の1ないし12:実開昭62-110223号公報に記載された帯に関する証明書

甲第12号証:「組紐、日本の美を組む伝統工芸」(泰流社発行)

甲第13号証:「日本の美術第308号組紐(くみひも)(至文堂1992年1月15日発行)

甲第14号証:「宇部時報」昭和58年3月17日号

甲第15号証:「宇部時報」昭和58年3月18日号

甲第16号証の1乃至2:「山陰中央新報」昭和58年5月22日号

甲第17号証:「宇部時報」昭和60年1月10日号

甲第18号証:「宇部時報」昭和60年1月11日号

甲第19号証:帯に関する山田津奈子の証明書

甲第20号証:袋帯に関する木方美津子の証明書

甲第21号証:帯に関する久保フジの証明書

甲第22号証:袋帯に関する久保フジの証明書

甲第23号証:組袋帯に関する平田靖雄の証明書

甲第24号証:組帯に関する平田去來子の証明書

甲第25号証:組帯に関する田中靖子の証明書

甲第26号証:橋本健治の戸籍謄本

甲第27号証:石岡俊一の戸籍謄本

甲第28号証:株式会社岡慶の登記簿謄本

(2) 検証物

検証物として、検甲第1ないし4号証、ならびに検甲第6ないし8号証を表示、検甲第5号証ならびに検甲第8ないし19号証を提出した。

検甲第1号証:山田津奈子所有の組帯

検甲第2号証:木方美津子所有の組帯

検甲第3号証:平田文三郎所有の組帯

検甲第4号証:平田去來子所有の組帯

検甲第5号証:田中靖子所有の組帯

検甲第6号証:久保フジ所有の組帯

検甲第7号証:久保フジ所有の袋帯

検甲第8ないし19号証:帯を着用している写真

(3)人証

下記の者の証人尋問および本人尋問を申出た。

1 証人 浅田敏明

2 証人 才原浩人

3 証人 田中靖子

4 本人 山田眞治

(4) ほかに下記の参考資料を提出した。

参考資料1:服装辞典(文化出版局発行)第736頁

参考資料2:美しいキモノ・別冊「留袖と振袖」(婦人画報社昭和58年11月1日発行)第158頁

参考資料3:家庭画報・特選きものサロン 88~89冬号(世界文化社1988年12月15日発行)第125頁

参考資料4:袋帯の紋様位置寸法図

参考資料5:八寸帯の紋様位置寸法図

参考資料6:八寸帯の仕立図

[3]一方、被請求人は、請求人の主張する理由および提出された証拠方法によっては、本件考案の登録を無効とすることはできない、旨答弁した(平成5年1月18日付答弁書、同年10月5日付口頭審理陳述要領書、同年12月29日付審判事件答弁書(第二)参照)。

[4]そこで、当審では、平成5年3月22日および同年6月25日に、両当事者の出席を求めて口頭による尋問を行い、同年10月12日には口頭審理ならびに証人浅田敏明、同田中靖子に出頭を求めて証拠調を行った。

(1) 本件登録実用新案の実用新案登録請求の範囲に記載された「表地を長手方向に対して斜め対称状の組糸による織り構造」とは、明細書の記載および平成5年6月25日期日の口頭による尋問の結果に徴すれば、参考資料1および参考資料2に説明されているような縫装帯において、表地を「組物」(甲第13号証とくにその第71頁第125図に示される物)とした構造をいうものであり、本件考案は、要すれば、表地を組物、裏地を織物とした縫袋帯にあるものと認められる。

(2) しかして、証人浅田敏明の証言および同人が証言の際に書いた図面からみて、甲第3号証の4「平家組亀甲」、甲第3号証の5「狂言丸文」、甲第3号証の6「吉祥宝尽し・宝文」、甲第4号証の4「笹波組」、甲第6号証の3「一七四(特選)焔をみつめる」、甲第7号証の3「一五四トッカータ」、甲第8号証の3「九一ソラリゼーション」、甲第9号証の3「一一五ガリア戦記」、甲第10号証の3「七一分子構造」が、各々「縫袋帯」であって、「長手方向に沿う両側縁を縫着されて重合状の表地と裏地からなる帯本体におけるその表地を長手方向に対して斜め対称状の組糸による織り構造とし、裏地を長手方向に平行する経糸とこれに直角状の緯糸による織り構造として成る帯」であると認められる。

(3) また、検甲第5号証に係る帯は、証人浅田敏明の証言により、被請求人の製造に係る「縫袋帯」であって、「長手方向に沿う両側縁を縫着されて重合状の表地と裏地からなる帯本体におけるその表地を長手方向に対して斜め対称状の組糸による織り構造とし、裏地を長手方向に平行する経糸とこれに直角状の緯糸による織り構造として成る帯」であると認められる。

(4) そして、上記(2)の各帯が本件考案の実用新案登録出願前に公知であった事実は、証人浅田敏明の証言により、また、上記(3)の帯が本件考案の実用新案登録出願前に公知であった事実は、証人浅田敏明の証言および証人田中靖子の証言により、明らかである。

(5) なお、平成5年10月12日期日の口頭審理において、審判長は、被請求人に対し、甲第1号証の2、甲第3号証の4乃至6、甲第4号証の4、甲第6号証の3(図番174のもの)、甲第7号証の3(図番154のもの)、甲第8号証の3(図番91のもの)、甲第9号証の3(図番117のもの)および甲第10号証の3(図番71のもの)、ならびに検甲第5号証に係る帯が被請求人の製作に係るものであるか否か、被請求人の製作に係るものであるならば、その製造時期、その帯の構造等について、書面で回答ないし説明するよう求めた(口頭審理調書参照)。

これに対し、被請求人は、平成5年11月16日に特許庁において、検甲第5号証に係る帯を検分したのにも拘らず、その後提出した平成5年12月29日付審判事件答弁書(第二)において、請求人が提出した証拠の成立性、証言の信憑性等について反論するにすぎず、帯の構造、製造時期に関しては何ら釈明をしなかった。

(6) 以上によれば、本件考案の帯は、本件考案の実用新案登録出願前にすでに公知であったと認めざるを得ず、他にこれを左右するに足る証拠はない。

[5]したがって、本件登録実用新案の登録は、その他の理由について検討するまでもなく、実用新案法第3条第1項第1号の規定に違反してなされたものであって同法第37条第1項第1号に該当する。

よって、結論のとおり審決する。

平成6年2月4日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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